「日本に絶望している人のための政治入門」(三浦瑠麗)
「政治は何も期待できない」という選挙民の絶望感。しかし正しく絶望した後にしか希望は訪れない。日本政治の 力学を徹底的に明らかにした上で、まだそこに見い出せる政治の可能性をリアルに提示する。 |
ということで、題名をエキセントリックにする昨今の商売ですが、内容はなかなか。
ざっくりと言うと、リベラル派なんだけど安倍政権はそれなりに評価しているという立ち位置のようです。
さて、いろいろ面白い表現があるのでさらっていきます。
ホンモノの保守は、国民の統合とか一体感とかを大切にするはずなのに、自分たちの主張に夢中で多くの国民に違 和感を抱かせてこの国に分断を作ってしまっています。ホンモノのリベラルは、真の弱者に寄り添って彼らにこそ 自由と自己実現が得られる環境を整備すべきなのに、自分たちの陣地を守ることに汲々とする。 |
ここは一等先に引用したかった箇所。 全くこの通り。 それに続いて、
否定形でしか語らない日本のリベラリズム 否定形でしか語らない日本の保守主義 |
とし、それぞれの不明を嘆いています。 さらに、
今の社会における論調を見る限り、右から左まで、まるで弱者しかいなかったが如き状況です。 |
との嘆きが続きます。
ただ、これはある程度必然ともいえるかもしれません。なぜなら、この方法が戦いに有利だから。有利な方法で
あれば各陣営が採用してしまいます。たとえそれが正義でないとしても。
また、日本の戦後リベラリズムの一端が以下から観測されるのは面白い。
むしろ、戦後リベラリズムの成果を誇る観点からすると、名もなき多くの財務次官や外務次官達が中産階級の出身 であり、大きな権力を振るってきたことの方が世界史的に稀有な現象です。 |
続いて、維新が意外と大きな動きになったことにも注目しています。
「維新」と反エスタブリッシュ感情 |
また、
資本主義と向き合うということは、グローバリゼーションと国民国家との関係を理解した上でそのどちらかに寄り かかりすぎないということです。 |
と述べて、日本の世界での立ち位置を見る目の弱さを危ぶんでいます。
そして、帯にもある、
戦え左翼、ただし正しい戦場で |
と、本来左翼が守るべき人を見捨てていることを危ぶんでいます。
国際情勢についても、
また、米国の単純で力強い理論、欧州の巧妙な偽善、中国のすがすがしいまでの厚顔は、それぞれの歴史を通じて 形作られてきた伝統であり、学ぶべき点が多いとは言っても、我々日本人がそうなれるわけではないでしょう。相 手と利益を共有する土台となる経済力、言ったことは行う/約束は守るといった信頼感は、厳しい世界を生き抜く 日本の財産です。 |
とは、全くその通りと思えます。
ウクライナの問題についても、
プーチン大統領は、ここでは彼の冷戦期から培ってきた洞察と決断力を行使し、地域の安定のために働いている指 導者であると見ていいでしょう。つまり、あくまでもロシアの指導者であるがゆえに利己的ではあるのだけれど、 国際法を踏み外しすぎることはしないし、個人的な小さな政治的利害や外交上の勝ち負けを気にして動いてはいな いということです。 |
とロシア側へ概ね理解を示していますが、
私が非常に気になるのは、ウクライナ全体の安定と人々の安全が問題の核心であるべきなのに、EU諸国やアメリ カが、益がないばかりか非現実的な対応をしていることです。まず、欧米の指導者や識者の頭の中には、民衆革命 のファンファーレが高らかに鳴りすぎています。これは欧米の指導者の自国の歴史の自画像が作り出す、根強い、 往々にして害のある思考です。 |
欧米側については疑問を感じているようです。 すなわち、ウクライナ問題では
エスカレートしているのは実は「国際社会」 |
と断じています。
さて、日韓問題も取り上げていますが、まあいろいろ無理がありますよね。
現実的な外交政策を志向する立場から日本人がよく理解すべきは、日本的な感覚でいうところの親日の韓国人は存 在しないということです。 |
残念ながら日本人を「人間」と見てくれる韓国人はいない、それだけは理解しておくべきかと。
最後沖縄問題を論じていますが、難しいのか理想論で終わっています。
問題点のひとつ、米国ですが、
米国の政策は、ある日突然素人が決めるのです。それが「専門性の高い素人」によって行われ、吉と出ることもあ りますが、もちろん、逆回転することもあるのです。 |
米国の政治が素人の一言で変転するのは、映画では良くあることですが、これが現実にも行われているとなると
しゃれではすみません。アメリカの素人の高官の言動ひとつで世の中のかなりが動くというのに、現実がこれだと
外国はたまったものではないでしょう。
以上、部分部分を取り出してみましたが、けっこう面白かったです。
安倍政権に対して、なるべく真ん中であろうとしているという評価は私と同じですし、虐げられ続けた右派が弱
者の権利を以って左翼に逆襲しているという評価も同じです。
著者はリベラルで私はリベラルでもないので、そこは異なりますが。
最近の政治本にしてはまともだと思います。
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