読書記録 平成14(西暦2002)年
ホームページからの疎開 その2
読書記録 平成14(西暦2002)年
塩野七生氏著、新潮社。
副題は「すべての道はローマに通ず」
ローマ人のインフラにかける情熱の凄まじさ。
ローマ人は現代人から「インフラの父」と呼ばれるくらいすごい。
現代でもインフラが整備されていない国家は多数存在するというのに。
内容はハードなインフラとして街道・橋・水道を、ソフトなインフラとして
医療と教育をあげています。
ローマ人万歳、ってな書き方ではありますが。
また、写真が本の厚みの5分の1は占めているというすごい本です。
著者がはじめにとあとがきで述べている言葉が心に残りますね。
ローマという古代国家をネタに現代社会をこき下ろしているのが良くわかります。
まあこれを読むと同感、としか言う言葉はありませんが。
神坂一氏。富士見ファンタジア文庫、今月の新刊です。
宇宙へ、人類は版図を拡大すると同時に無秩序も拡大させていた。
法整備が完備していない地方では宇宙海賊など無法者がのさばっていた。
そうした無法に対する事件処理業者(トラブルシューター)として活動する
者たちの物語が、主旋律として流れる。
しかし、彼らの正体は・・・
会話の流れとかは神坂氏の独壇場でしょう。
底辺に流れるのは、世の中に対するやるせなさ、しかしそれを踏み越えて行こうとする
その気概であります。
氏の他の作品にもそれは描かれています。
評論者が言っていた、とりあえず買って損はしない作家、というのは厳しいか。
安定した筆力を持った作家だと思います。
田中芳樹氏著、講談社の先月の本です。
薬師寺涼子の怪奇事件簿の3冊目。
元警視総監を父に持つ美人で有能で年下のキャリア・薬師寺涼子警視を上司に持つ
ある意味ちょっとかわいそうな泉田警部補の物語、というべきでしょうか。
将来の女性初の警視総監の座は確実と噂される、切れ者な薬師寺警視ですが、
とても警察官とは思えないぶっとんだ思想と行動の持ち主です。
いつも彼女、いや、彼女と泉田警部補とあと何人かがそろうと、
そこには不思議な事件が持ち上がって、、、というシリーズです。
ちょっとしたミステリー仕立てではありますが、主要登場人物を全部警察官で
固めたことで、事件に接するという確率を自然に上げてあるのはなかなかです。
主人公を男性にすることで、相方の女性のミステリアスな様子を増すところなどは
うまいなあと思います。
ミステリーにほのかな恋愛を混ぜるというのは、森博嗣氏が犀川・萌絵シリーズで
組み合わせたのと同じで、筆力さえあれば最近のトレンドとして爆発するでしょう。
田中氏の筆力は銀河英雄伝説で証明されておりますが、問題は遅筆ということ。
今も未完のシリーズがごろごろしています(笑)
その中の創竜伝のお楽しみキャラ小早川奈津子をヒロインにしてみたらこうなった
と言わんばかりのものです。
なっちゃんは主人公にはできないのでこっちで活躍させているのだろうというのが
如実にわかります。
さらに他の登場人物も味があります。
森氏もキャラクターの味を出すのはうまいですが、田中氏は昭和の時代から
キャラクターの書き方では一級品と言われた人です。
前作2冊も読むといっそう楽しめます。
副題は「The Riddle in Torsional Nest」
講談社ノベルス、森博嗣氏の今月の新刊です。
(実際は「捩」はちょっと違う字なのですが)
今回は講談社ノベルス創刊20周年記念だそうで、密室本シリーズには
切らないと中身が見えない様に覆いがしてあります。
立ち読みができませんね(笑)
ある資産家がメビウスの帯を建築物にしたものを作ってしまいます。
そこにはあのエンジェル・マヌーバが・・・
しかし殺人事件が起こり、エンジェル・マヌーバも消えてしまう。
殺人と密室。
そしてエンジェル・マヌーバの行方は?
さて、Vシリーズの第8作目にあたるこの本には、探偵役の紅子さんはプロローグと
エピローグにしか出てきません。
さらにいつもの小鳥遊練無と香具山紫子は影も出てきません。
その代わりと言ってはちょっとなんですが、助手役にはあの西之園萌絵が出てきます。
Vシリーズの書き手たる保呂草潤平は助手役ではなく泥棒役ですので、
全く探偵役が出てこないということです。
ちょっといつものVシリーズとは趣向が違っています。
ページ数も173と森氏にしては短い部類に入りますし。
森博嗣氏の文体は詩的だと以前書きましたが、各章冒頭の引用もきれいです。
ただ、普通の小説家さんの書きようと異なり、描写が独特ですからかなり好き嫌いが
分かれるのかもしれません。
実際の人間だったらこういう風に行動し発言するだろうという自然さが出ています。
ただ、登場人物は自然であっても普通ではないので小説として成り立っているのです。
この物語では全ては語られません。
保呂草は果たして何を得て何を知ったのか。
シリーズの謎はさらに深まるのです。
この本を読むのでしたら、是非ともS&M(犀川&萌絵)シリーズ10冊と
V(紅子)シリーズのこれまでの7冊を読むのをお薦めします。
さらに面白く感じることと思います。
題名「嵐の獅子たち」。
栗本薫氏、ハヤカワ文庫の今月の新刊。
クリスタルに閉じこめられていたリンダを救出し、味方と合流を果たしたグイン。
しかし、激戦地ダーナムに新手の軍隊が出現したとの報を受けます。
それはゴーラからはるばる遠征してきたイシュトヴァーン軍でした。
グインはイシュトヴァーンについて語ります。
一方ダーナムを解放したイシュトヴァーンはナリスの元に赴くべくマルガへと進軍します。
しかしマルガを目前にして謎の軍勢から奇襲を受けます。
イシュトヴァーンの運命はどうなるのか。
最近2ヶ月に1冊の割で刊行されているグイン・サーガです。
栗本氏は著作業の他に演劇なんかも手掛けているのでかなり忙しい人のはずなのですが
作品は滞ることなく出ていますね。
まあここら辺は大学の先生である森博嗣氏などにも当てはまるのですが、
こういう激仕事人というのは確かに存在するのだなあ、
とこの人達の著作が出る度に感じてしまいます。
関係ないけど、今週のNHKのTR(トップランナー)に出ていた京極夏彦氏が、
起床は6時で寝るのは深夜の4時過ぎ、早い時でも3時というのを言っていましたね。
超人達と言っても過言では無いのでしょうが、実はけっこう身近にそういう類の人が
存在したりすることもあるのでなかなか侮れません。
ファミ通文庫、吉岡平著。
富士見ファンタジア文庫版の1巻と外伝1巻を書き直すだけで6巻をかけてます。
お陰でかなり書き込まれています。
この10年で描写の書き込みが格段に上達していますね。
などと言うと偉そうですが。
読んでいて楽しい作家です。
日下公人(くさかきみんど)氏著、PHP研究所の新刊。
題名の割には戦争についてはそんなに触れられていません。
どちらかというと、日本の常識=世界の非常識、をいろいろな面から書いている感じですね。
内容は面白いし、豆知識としては非常に役立つと思います。
ただ、そのまま読むととんでもない表現があちこちに散りばめられていたりしますが。
”中国は国家の名に値しない”というのは良い視点ですね。
まじめにやるのが第一で、頭を使っていい目を見ようなんてのは下だなあ、って感じる書です。
公開初日に見てきました。
指輪物語の映画化は失敗する、というジンクスがありまして。
過去二回の映画化はさんざんなものだったと聞きます。
試写会に行った人の評判もあまり好ましくなかったので、駄目かなと思いましたが。
確かに、画面の動かし方がちょっと目に優しくなかったり、
なんとなく最近見た映画に似ているなあ、という感じもしないではなかったです。
エルロンドが何となく悪役顔をしていたり、
アラゴルンとボロミアの区別が付かなかったり、
どっちがピピンでどっちがメリーだかわからなかったのも困りました。
しかし、ホビット役をちいさく描いたり、群衆シーンがすごかったり、
技術的なものには舌を巻きました。
3時間という長尺ですが、かなりよかったと言って良いと思います。
まあ終わり方が・・・というのはしょうがないでしょう。
指輪物語というのはこういうものなのですから。
それよりも、国際会館松竹、最近作ったはずの映画館なのに、
画面は狭いわ、薄汚れているわ・・・
映画に対する心意気が感じられませんでした。
映画はまあまあ良かったのになあ。
THE LORD OF THE RINGS、J. R. R. トールキン著。
瀬田貞二、田中明子訳、評論社。
もともと三部作で、第一部・旅の仲間、第二部・二つの塔、第三部・王の帰還となっています。
それぞれが長いので、日本語訳で出すときにそれぞれ上・下に分けて最初は6巻だったのです。
ところがそれでも長いので第一部の上下巻と第二部の上巻だけさらに1・2とわけてあります。
そのため第一部だけ書くと、上1、上2、下1、下2という4つに分割されることになりました。
それで計9冊になってしまっています。まったく珍しい。
こう書くとわかるとおり読むのに非常に時間がかかります。
しかも訳した人には悪いのですがちょいと読みにくいのです。
なるべく原作の雰囲気を残したままということらしいのでこれは我慢ですが。
こんなに長いにも関わらず、ちょいと端折っているなあと感じてしまうのは不思議です。
とにかく作者がちょっと短すぎたかもしれない、という述懐をしているので間違いないでしょう。
書くのに1936年から1949年までかかっていますが、戦争中も少しずつ書いていたみたいです。
出版されたのは1950年代半ばです。
指輪物語は現代ファンタジーの祖ともいえる作品です。
最初にホビットという種族が出てきて、エルフ、ドワーフ、オーク、魔術師などがぞろぞろ出てきます。
この物語はホビットの一人が偶然手に入れた指輪が、世界を支配する”一つの指輪”であった事から始まります。
そして、それに気が付いた人々と、元々の製造者にして所有者である冥王との間に次第に緊張が走り、
それぞれの指輪争奪競争から、指輪大戦とも言える争いに規模が拡大していく様を描いています。
そして、終局へと物語は次第に静かに流れていきます。
音楽作品的な流れを感じます。
読むのに一月はかかりましたが、これは読んで良かったです。
最後の締め方がなんとなく銀英伝に似ているなあと思ったのは私だけではないはずです。(もちろんこっちの方が早いのですが)
かなり根気が要るかもしれませんが、お薦めの作品ですね。
加藤陽子著、講談社現代新書の今月の新刊。
日清日露から太平洋戦争まで、その国際的・国内的な背景を研究したものです。
まあこんなものでしょう。
一般に満州事変から国際連盟脱退で日本の立場は悪化したと信じられているのですが、意外と不利にはなっていないようです。
関東軍の独走さえも、ちょっとやりすぎたけど気持ちはわかるという風に外国も捉えられていたみたいですし。
日中戦争が突発的に始まってしまった事とソ連がかなりジョーカーだった事がその後の帝国の崩壊を決定づけてしまったと行っても良いでしょう。
確かに帝国政府、軍部は国際認識が少々甘かったのかもしれませんが、現在の政府、マスコミよりは確実に賢かったと思います。
栗本薫著、ハヤカワ文庫の今月の新刊。
題名は「劫火」。
ここを見る人も少ないだろうからネタバレを。
なんとイシュトヴァーンが竜王の手先となってマルガを攻撃。
ナリスの運命や如何に、っていうところで終わっています。
毎回見事に引きが入っています。
外伝が16冊あるので、シリーズとしては100冊目だそうです。
凄いですね。
鬼頭宏著、PHP新書の今月の新刊。
地球が閉じた系であることがはっきり認識されてきた現代の問題について、同じく資源・エネルギーに関しては閉じた系だった江戸時代を一つの基準として考えようという流れがあります。
そういった考えに触れる入門書的な位置付けになるでしょうか。
もちろん江戸時代といえば今の日本とはかなり差異はあるのですが、それでも何らかの繋がりは見えてくるものです。
人間の活動による環境への負荷は当然江戸時代にもあり、公害や自然破壊といった問題はそれこそ人類とともにあると言って良いくらいです。
江戸時代をざっと眺めて書いてあるので、江戸時代がどんな時代だったかを感じるには良い本だと思います。
主に日本だけについて述べられていますが、さて、人類全体としてはどのようになるのでしょうかね。
神坂一著、富士見ファンタジア文庫の今月の新刊。
クロスカディアの2巻目です。
いつもながらこの作者は真面目なのか不真面目なのか良くわからないですね。
全体の流れはシリアスと言っていいのですが、時々シリアスに見せかけておちゃらけが入ります。
味ですね。
田中淳夫著、平凡社新書の3月の刊。
不況と言うよりは衰退した日本の林業の復活のさせ方の一案とでも言いましょうか。
林業のみならず環境とか産業のありかたに一石を投じたいという心意気が出ています。
林業は実は森林を健全化しうるとのです。
うまくやることができれば産業の劣等生の林業も復活させることができる、そんな展望も見えてきそうです。
杉立義一著、集英社新書の今月の刊。
産婦人科医の著者が縄文時代から現代までの日本でのお産の歴史を綴ったものです。
胎児は頭が下、という現代の常識も実は18世紀半ばにやっとわかったのですね。
しかも西洋だけではなく日本でも同時期に発見されたとは驚きです。
とはいえ古代ギリシア・ローマではちゃんと頭が下と認識されていたのでは・・・というのもあるのですが。
どうでしょう。
鷹見一幸著、スニーカー文庫の5月の刊。
アウトニア王国再興録1、英雄待望篇。
前3冊の”奮戦記”でアウトニア王国を帝国に滅ぼされてしまった主人公達ですが、この巻では前作の登場人物が活躍しています。
主人公が出てくるのは最後の方です。
所々に埋められているギャグと、静かに流れる悲しい旋律がこの青春スペースオペラの味でしょうか。
作者によると「牛丼屋は不滅です」だそうです(笑)
森博嗣著、講談社。
副題は「Rot off and Drop away」
森ミステリィでは愛は哀であるというのが裏の旋律ではないかと思うのです。
Vシリーズの9作目にあたる本巻は「6人の超音波科学者」の続きです。
短編とかこれまでの8作品で拡げられていた風景が一挙に繋がります。
Vシリーズでは語り手の保呂草さんのファンか、探偵役の紅子さんのファンかで作品の見方が変わりそうですね。
八木秀次著、PHP新書。
副題は「日本の国柄とは何か」
明治憲法は軍国主義を招いた悪法というイメージが戦後は定着しています。
しかし、明治憲法は実は国内外から称賛されたかなりの良法だったということは学校でも社会でも教えてもらえません。
現憲法がその成り立ちに於いて少々の怪しさを孕んでいるためにされた無実の罪と言えば言い過ぎでしょうか。
大正デモクラシーに代表されるように明治憲法下でも現代に勝るとも劣らない政党政治、原論の自由が展開されていたことを見れば、憲法条文よりその運用が命であることは明白です。
憲法起草者達も運用が命だと考えていました。しかしその運用の柔軟さが徒になり、昭和になって軍部が政治に介入しわずか10年で国は軍事国家となり、さらに10年で国家は崩壊しました。
今の日本もわずか10年の変化で国が崩壊しかねない勢いです。
昭和前期の日本人も平成の我々も混乱した世相に生きているのです。
案外知られていないのですが、明治憲法でも戦後憲法でも憲法のさらに上流に条文が設定されているのです。
有名な「五箇条の御誓文」です。
一、広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ
一、上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ
一、官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメンコトヲ要ス
一、旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
一、智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
実に社会はシステムではなくそれを運用する人間よって動くのです。
松本哉著、集英社新書。
寺田寅彦は”天災は忘れた頃にやって来る”で有名な人です。
物理学者にして文筆家でありいろいろ面白い随筆を書いています。
寺田寅彦というと懐かしい響きを感じるのは、時代が進んでしまったからでしょうか。
鷲田小彌太著、PHP新書。
帯の文字が”哲学はドラマである!”と来ました。
確かにこれからの時代は哲学をちょっとでも知らないと困るかもしれませんね。
哲学史よりも時々挟まれているコメントに味があったりします。
神林長平著、ソノラマ文庫ネクスト。1997年単行本で出ていたものを1999年文庫化したもの。
神林長平と言えば猫と人工知性ですが、今回は野良猫の様と評される人造人間が主人公です。
いつもながら読んでうならせてくれる小説の書き方をする人です。
軟派な小説も好きですが、こういった硬派の小説も大好きですね。
文春新書。
中曾根康弘、西部邁、松井孝典、松本健一の対談集。
天文学者の松井さんが加わっているのでどんな風になるかなあと思って読んだのですが、
特に目新しいことはなかったです。
雑誌の再録なのでそれもそうかなと。
85巻、”蜃気楼の彼方”。ハヤカワ文庫、栗本薫著。
物語はどんどん進んでいきます。
グイン・サーガの書式を以て描写が細かいと捉えるか中身を薄めていると捉えるか、人によって好みが出てくると思います。
あとがきについても、良しとするか嫌に感じるか差異が出てくるかも。
自分は面白い小説が読めればそれで良い派なのでこの種の論争には参加したくないですねえ。
光文社新書、江藤隆司著。
伊藤忠でトウモロコシの輸入に携わっていた方みたいです。
日本では貿易とか経済とか言うと工業製品しかない様に見られていますが、世界経済から見ると農産物も侮れないのです。
農産物に関しては政治とか生活レベルとか天候とか複雑な要素が絡み合っているので、一筋縄では行かないのですね。
特に日本では、為替とか貿易統計は工業中心で語られることが多いので、農産物の重要性についてもっと語られても良いのでは無いかと思いますけどね。
光文社新書、山際素男著。
インド千夜一夜物語だそうです。
全18巻、十万詩節、二十万行を越える世界最大の叙事詩で、”ここにあるものは総て何処にもあり、ここに無いものは何処にも無い”と豪語する書物です。
ダイジェスト版ですがそれぞれに納められた逸話が面白いですね。
けれども本編を全部読むのはちょっと無理ですな。
光文社新書、田中宇著。
副題が”何も知らない日本”。
国際関係論の一種ですが、この本の様な世界観もあるのかなと。
一歩間違えると陰謀史観の一種と見なされそうです。
こういう視点で世界政治を見る人って少なくないと思うのですが、絶対主流にならないのは面白いというか何というか。
ウェブサイトのアドレスまで載っています。
www.tanakanews.com
集英社新書、ブリギッタ・ロート編、西川賢一訳。
いろいろな人がいろいろな事を言っています。
とても面白い(笑)
副題:幸福な未来への経済学
中公新書、松谷明彦、藤正巌著。
2006年から日本の総人口は減り始める事はわかっているのですが、その人口減少社会を題材にして行政・企業の根性の無さに文句を言っているといった感じです。
政府・企業の不甲斐なさに腹を立てて書いたのでしょう。
考えるほど世の中はうまくいかないので、なるようになるさ、としか言えませんが。
(神坂一、スニーカー文庫)
ライトノベルとしては面白いです。
ギャグで始めてシリアスで終えるというのはこの作者のパターンなのですが、一度作風が確立してしまうと読者としては辛いところです。
筆力があるからまだしばらくは大丈夫かな。
(織田一郎、文春新書)
時の成り立ちと、時計技術の成り立ちとの解説が面白いです。
国際関係となると日本はどうも駄目だなあというのが良く現れています。
著者はサマータイム肯定派なのでしょうか。
欧米ではとか言いますけど、なぜ欧米でサマータイムが受け入れられているのか不思議でならないんですけどね。
オーストラリアなど南半球の国々のこととか考えても疑問が尽きません。
(火浦功、徳間デュアル文庫・・・2001.11)
いや、こういった馬鹿馬鹿しい小説というのも良いものですね。
常識的な小説が好きな人は火浦功は駄目でしょうけど、そうでない人ははまります。
映像がとてもきれいですね。
ストーリーとか俳優の演技とかどうでもよくなると言ったら言い過ぎですが。
監督も断言していますが、この作品での見所はヨーダでしょう。
友人は杖いらんじゃん、とか言っていましたが。
(池谷裕二・糸井重里、朝日出版社)
三十歳を過ぎてから頭は良くなる。
脳は疲れない。
池谷氏と糸井氏の対談集ですが、読むだけでも元気が出てきます。
お値段は税別1700円となっていますが、まあそれだけの価値はあるでしょう。
池谷氏は実はちょっとした知り合いなのですが、身近な人が本を出すと不思議な気がするものです。
(神坂一、富士見ファンタジア文庫)
読むと笑ってしまうので絶対電車の中では読めません。
ライトノベルの中でも馬鹿馬鹿しさが限度を超えればちゃんと笑いになるということがわかって良いです。
このバランスが作者の力量でしょうか。
でも、バカップルはうざいですね。
(八木秀次監修、小学館文庫)
我が国で戦前に行われていた修身の教科書のダイジェスト版です。
修身と言えば戦後進歩派の人々には受けが悪いのですが、書かれている内容は非常に優れています。
小さい頃に見ていた偉人伝がそう言えばこれに似ていたのかもしれません。
戦後57年、そろそろ良いものは見直して欲しいものです。
(栗本薫、ハヤカワ文庫)
86巻です。
ついにグインとイシュトヴァーンが戦場でぶつかります。
しかしこの作家、あとがき長いよね。
(副島隆彦、五月書房)
副題:Beyond the Planet of the Apes
「私は、日本が本当は猿の惑星なのだ、ということに気付いた優秀な若い猿である」
とは著者の弁ですが、さもありなん。
いやいや、ここまで正直に書いて良いものでしょうか、と他人事ながらいささか心配になります。
日本の文化系言論人をほぼ全部罵倒している、と言っても過言ではないでしょう。
まだしも理系に関しては養護している向きもありますが、
おそらく理系に関してはあまり知らないので詳しく書いてないだけではないでしょうか。
理系の状況を直視すると、目がつぶれるかも。
それとも理系は文系よりまだまし、という事でお目こぼしでしょうか。
「属国日本」という言葉を初めて使ったのは自分だ、との自負が炎の様に吹き出ています。
全体的に書き殴りのように見えますが、意図的にそういう編集をしているのでしょうか。
書き殴りの様な文章を意図的に選んだ、とも言えますが。
この前著にあたる「属国日本論」も以前読んでいるのですが、毒気が増えてますね。
現状に不満だらけと言うのが歴然ですね。
この本を読めば皆憮然とするでしょうか。
それとも、そのとおりだ、と喝采するのでしょうか。
不毛だ、との感想を持つ人もいるでしょう。
なんだかちゃんとした事を言っているだけの様な気がしますが、
確かにこの論調で表に出された本は見たことが無いかもしれません。
読んで損はないと思いますが、この本を読むと新聞・テレビを見る気を無くします。
ところで「ポチ・ホシュ」とは小林よしのり氏とかも使っていたのですが、
どちらが初出なのでしょうね。
小林氏の本に書いてあるのかもしれませんが、確認していません。
ちなみに著者のホームページ(サイト)があります。
「副島隆彦の学問道場」
(神林長平、ハヤカワ文庫)
1986年9月に光文社から出版されたものの復刻版とでも言いましょうか。
帯には「スラップスティック版『雪風』!?」とかありますけど全然似てません。
16年前の作品ですか。
計算すると30代前半に作者が書いたことになりますが、勢いがありますね。
ノリだけというかパワー全開というか荒削りというか。
昔の神林作品は脳味噌をこね回されるような感じがするものが多いですがそんな感じです。
読むのにちょっと苦労するところが神林長平作品の味だったりします。
書くのにも苦労しただろうなあ・・・
(斎川眞、ちくま新書)
この本は以前書いた副島氏の本に載っていたので、どんなだろうと思って読んだ本です。
1999年10月の本ですが、天皇関係の本としては比較的良くまとめられていると思います。
などど書くと偉そうですが。
妄想が少ない本というのは良いですね。
新書だからというのもあるでしょうが、この本の書き方は何か参考になるかもしれません。
天皇は”すめらみこと”読むのが正しかったのですね。
ま、今風に読んでも別に困ることは無いでしょうけど。
あと、「事大主義」と「夜郎自大」はなるほど”後進国”ならどこにでも出てくる現象なのだなと。
どうにも内容の説明から外れてしまいましたが、読んで面白い本でした。
(吉岡平、ファミ通文庫)
富士見ファンタジア文庫から10年くらい前に出ていた無責任シリーズを書き直したものの続きです。
前にも書きましたけど、著者の筆力が上がっているので内容もずいぶん良くなっています。
今回はタイラーとユリコの結婚式と「信濃」の最初のところが出ています。
タイラーとヒラガーの描写の濃度が濃くなっています。
参謀本部三羽烏とかもただの馬鹿としては扱われていません。
昔に比べてより大人になった「無責任シリーズ」です。
しかし作者も嘆いていますが、主役のヒラガー、前回では奇妙奇天烈な人間に描かれていますが、
今みてみると何処にでもいる青少年になってしまってますね。
はっきりいってヒラガーより奇妙な人が周りにいっぱいいる現代って、すごい。
(田中芳樹&荻野目悠樹、徳間デュアル文庫)
スペースオペラですねえ。
ヴェネツィアとトルコの戦争って感じでしょうか。
もちろん、軍事だけじゃなくて情報戦、経済戦てことで。
ただいま風呂敷展開中、という感じです。
しかし、2チャンネルで”もしもライトノベル作家が一つのクラスだったら・・・”で
「先生! 田中君が後輩にレポートを書かせてます!」
とか
「先生! 田中君最近レポート書いてません!」
とかいうのがあって笑えました。
(鷹見一幸、角川スニーカー文庫)
続けてスペースオペラです。
前巻では周囲の人々の動きの方が主流でしたがやっとマイドの活躍するところとなりました。
と言いたいところですがまだまだ周囲の流れの方が気になります。
そろそろ無敵提督が動き出します。
流浪の民たちは果たして強大な帝国に勝利することができるのでしょうか。
スペースオペラとは現代における童話だと、自分は思うのです。
それも少年少女のものだと思うのです。
この視点を失うと作品の評価は難しいでしょう。
いつの日かこんな優しい物語を自分も書きたいものだと思います。
(森博嗣、講談社)
Red Green Black and White
森ミステリィの新刊です。
Vシリーズ10作目で最後です。
相変わらず最終巻はページ数が多いです、367ページです、980円です。
淡々と詩的に語られる情景があると思えばジェットコースターの様に急転回もします。
さすがに最終回だけあって登場人物はみんな無茶をしますね。
そしてエピローグの物語。
あれはどう繋がるのでしょうか。
それこそがミステリーだったりします。
(神林長平、早川書房)
奥付には1983年2月28日発行、2002年7月31日六刷とあります。
大人になれば感応力が無くなる世界。
そこでは少年が時間と仲間と大人とに挟まれ木の葉のように揺れていた。
神林長平の作品はきわどいです。
展開の鋭さが、論理の鋭さが読む側を切り裂きます。
氏のラストはいつも切なさを感じさせます。
神林長平は覚悟して読め、というところでしょうか。
すごいわ、この人。
(神林長平、早川書房)
奥付には1986年8月31日発行、2002年7月31日五刷とあります。
制御体に司られている世界。
その世界で制御体に認識されない少年がいた。
彼は何者で、どこから来て、そして何処に行くのか。
そして世界は不思議な展開を見せ始める。
神林世界、言葉と想いそして色の世界。
何と言ったらいいのでしょうか、世界が一瞬にして反転するという、そんな感じ。
不思議な作家です。
(田中芳樹、講談社)
夏の魔術シリーズの4冊目で最終巻です。
耕平は行方不明になった来夢と北本氏を探すため、再び旅に出た。
そこで出会う意外な人物。
果たして耕平は来夢を取り戻すことができるのか。
といった物語なのですが、ちょっと歴史を辿ってみましょう。
夏の魔術:1988年4月30日初刷
窓辺には夜の歌:1990年7月31日初刷
白い迷宮:1994年7月31日初刷
春の魔術:2002年9月18日第一刷
このシリーズが始まったのは昭和だったのか・・・
それぞれの間隔が、2年、4年、8年です。
最終巻では21世紀に入ってしまいました。
夏・秋・冬・春を14年半かかって書いた計算です。
時間かけすぎだって・・・
まあこの作者、完結させただけでもえらいです。
未完の作品がいったいいくつあることやら・・・
いや、作品はなかなか面白いですよ。
作者の遅筆に文句を言っただけです(笑)
(神林長平、徳間デュアル文庫)
出渕監督の「ラーゼフォン」を小説化したものですが、神林氏にとっては初の試みです。
アニメ版ラーゼフォンはエヴァンゲリオンを真似したとか、いやエヴァンゲリオンがラーゼフォンを真似したとかいろいろ議論されている作品ですが、ここでは関係ありません。
原作とどれだけ違うのかは、原作を見てないのでわかりませんが。
読めば「これは神林長平の作品だ」というのがわかります。
エジプト神話と平行世界、そして時間と物質というのがテーマでしょうか。
狂った時空を調和させる時間調律師とは神林氏得意の分野か。
この作者の上手いなと思うところは、必ず最後と最初が連動しているところです。
決して全体の調和を乱さない。
さすがですね。
(神林長平、ハヤカワ庫)
神林氏にしては珍しいことに普通の小説だったな、という感じです
テレパスは出てきますが、猫も人工知性も出てこないからそう感じたのかもしれません。
時は未来、舞台は月世界。
魂の救済が主旋律でしょうか。
最近神林作品を連続で読んでいたから慣れてしまったのかな。
(勢古浩爾、洋泉社)
帯の”バカには付ける薬がない!”とか”バカは死んでもなおらないから、もう笑いのめすしかない。”というのが全てを表していますが。
バカを列挙しただけといえばそれまでですが。
困ったな、何も言うことがない(笑)。
(夢枕獏、文春文庫)
安倍晴明と源博雅のシリーズ第四弾です。
この人の描く安倍晴明は超然としていて、かつ人間味溢れているので好きです。
そしてこの人の描く蘆屋道満が好きな人も案外多いかもしれません。
1980年代初めにテレビアニメでデビューしたガンダム。
映画版が深夜枠の地上波で放送されていたので録画して見てみたのです。
あまりにも有名なのでコメントはありきたりになりますが。
設定や人間ドラマの有様等、富野監督の影響が大きく出ている作品です。
20年前とかなり受ける印象が違います。
昔は単なる面白いアニメでしかなかったのですが、こうして見直してみると奥の深い作品です。
さすがに20年経っても人気が衰えないだけのことはあります。
しかし富野さん、登場人物を殺しまくっています。
田中芳樹氏もかくやという感じ。
(神坂一、富士見ファンタジア文庫)
5つの月が回る星クロスカディアでの物語。
クロスカディアにはヒューム、ドラグノ、ディーヴァ、リワーダーの4種族がいます。
ディーヴァに付け狙われていたメイを保護してしまったシンは、その後自宅の半壊、度重なる襲撃など不幸な目に遭い続けます。
ドラグノのレゼルド、リワーダーのラフラ・リフラなどの協力で襲撃は辛くも撃退しますが、形勢は不利。
一行はレゼルドの故郷である北の大陸に渡って難を逃れようとしますが、果たして無事に辿り着くことはできるのでしょうか。
という感じの今回です。
軽妙な書き方はさすが神坂氏といった感じですが、主人公のシンの弱さが目立ちます。
いや人間にしては強いんだけどその他3種族が強すぎるというか。
風呂敷展開中ですが、シンは単なる観察者で終わるのか、それとも何か鍵となる主人公なのか謎です。
あとがきがまた神坂氏らしいといえば神坂氏らしい。
あ、表紙裏の紹介文のルビを一箇所間違っていることも指摘しておきましょう。
なんでこれが見過ごされたのだろう?
(稲田智宏、光文社新書)
神社の前に建っている鳥居についての入門書みたいなもの。
急いで書いたのか章ごとのまとまりにばらつきが見られるのが少々残念。
この関係が好きな人には軽い読み物として良いかもしれません。
(森博嗣、中央公論新社)
森博嗣の描く戦闘機のパイロットもの。
淡々と詩のように流れる文章は、時に無機質にも見えます。
作者の心象スケッチなのでしょうか。
読後に得られるものはリフレインか空虚か、人によって評価は大きく異なるでしょう。
(サミュエル・ハンチントン、山本暎子訳、ダイヤモンド社)
「文明の衝突」で有名なハンチントン教授の本。
9.11後の世界の様相を述べています。
日本の出版社から依頼されて執筆しただけあって日本についての記述は細やか。
岡目八目と言うべきか、理想論というべきかは微妙なところ。
一つの視点を与えてくれる書でしょう。
(福沢諭吉、岩波文庫)
あまりにも有名な本。
筆禍の評も外れることが無いでしょう。
面白おかしく読み易いです。
明治初期の作品ですが現在でも通じるものが多いですね。
あと福沢諭吉と言えば脱亜入欧で嫌っている人が多いらしいですが(なんで嫌うんでしょうか)。
実は脱亜入欧と言ったことは一度も無いらしいです。
星一徹のちゃぶ台返し伝説のようなものでしょうかね。
(川勝平太、ちくま新書)
近代初期には「真」の追求が起こった。
次に自由と平等のどちらが「善」かの争いが起こった。
そして現在世界を動かしつつあるのは地球環境に対する「美」の追求になっている。
そんな感じで始まります。
南方熊楠、西郷南洲などの人々を上げ、これらの人々の感性こそが現代に生きるものと指摘しています。
後半は日本及び世界の見方で、この人は道州制や連邦制が好きなようです。
首都移転は東京時代との決別と言う点から良いものである、との認識のようです。
理想論であるというのはそうなのですが、実現すると面白いなという視点がたくさんあります。
所々に散りばめられたエピソードを読むだけでも価値が高いかもしれません。
良書でしょう。
(田中芳樹、講談社文庫)
田中芳樹氏の作家デビュー25周年を記念して出された文庫です
対談、エッセイ、インタビューとてんこ盛りの内容です
最後に年表が付いていますがやっぱり出版ペースが落ちてますね
まあ読者は無茶を要求するものですからこれくらいは言っても良いでしょう
田中芳樹ファンは是非手に入れて読んでください
ところで先生、次の作品はいつ出ますか?
(石原藤夫、裳華房 ポピュラーサイエンス253)
ふくはらなおひとさんのサイトで話題になっていた本
光世紀世界とは太陽を中心とした直径100光年の球状宇宙のこと
ハードSF作家・石原氏がSF作家用に編集したものです
その筋の人には面白いものと思われます
(野尻抱介、ハヤカワSFシリーズJコレクション)
西暦2006年
高校の天文部員白石亜紀は水星の日面通過の観測中に奇妙なものを発見する
それは次第に大きくなり人類の生存を脅かすリングとなった
果たしてこれは異星人の仕業なのか?
という感じのSFです
久方ぶりの日本のハードSF
面白かった
しかし、ハードカバーでもないのに税別1500円もするのね
SFファンじゃなければ手が出ないな
逆に言うとSFファンなら値段に目を瞑っても買うだろうけど
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