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2018年8月19日 (日)

「帳簿の世界史」(ジェイコブ・ソール、村井章子訳)

 いわゆる複式簿記が発明されたのは中世イタリアです。
 それまでも会計はありましたが、アラビア数字と貿易における共同出資方式の採用で複雑な記録を処理する必要が出てきたからのようです。
 まさに必要は発明の母。
 会計は非常に有用なツールで、極めれば巨万の富を築くこともできました。
 しかし、会計を怠れば栄光は露と消えていきます。

 最初の例はフィレンツェを支配したメディチ家。
 銀行家のコジモといえば世界史の有名人。
 しかし孫のロレンツォは会計を大事にせず濫費を繰り返して身代を潰したのはご存知の通り。

 そして16世紀スペインは世界に覇を唱えていましたが、実は無茶苦茶な財政運営だったようです。
 アルマダの海戦での大敗北、30年戦争、新大陸の金銀の枯渇など17世紀のスペインは下り坂でした。
 ドン・キホーテでセルバンテスがかつての栄光が失われたスペインを嘆いたのがこの時期です。
 会計に反対する勢力が多く、財政改革がままならなかったのでした。

 逆に会計に強かったのがオランダです。
 そして民間資本と国家資本の混成となる東インド会社は歴史的な発明でした。
 しかし富める者は狙われるもので、17世紀には英蘭戦争でニューネーデルランド(現ニューヨーク)をイングランドに明け渡したり、フランスに攻め込まれたりしています。
 会計に強いところは恐れられるものでもあったのです。

 ルイ14世を支えた会計顧問のコルベールはつとに有名です。
 この時代ルイ14世も帳簿を持つほどで、フランス全土に会計システムが広がりました。
 ブルボン王朝の最盛期です。
 しかし、コルベールの死後、フランスの会計は滅茶苦茶になります。
 既にルイ14世の死後1年でフランスは破産状態になってしまいました。
 18世紀、もうどうにもならなくなった時点でルイ16世がネッケルを財務長官に任命します。
 ネッケルは改革を断行しますが、脅威を感じたアンシャン・レジームから叩かれます。
 そして民衆の味方となっていたネッケルが国王に罷免された後、群衆はバスティーユに殺到しブルボン王朝は終焉を迎えた。
 フランスで徴税請負人制度が廃止され、国税庁が設置された後フランスは会計改革の国となったのです。

 イギリスで産業革命が起こったのも簿記のおかげで、事業が複雑化した場合のコストの計算を見出したのです。
 しかし、産業革命で成功したイギリスを公害が覆っていくのは避けられない運命でした。

 さらに時代が進むと人権より生産性が優先する「科学的管理法」が脚光を浴びることになります。
 フォードやヒトラーもテイラーの科学的管理法を採用しました。
 ただしフォードの非人間的管理はストライキを頻発させ、ヒトラーは会計責任を無視して敗戦まで軍事路線をひた走ったのでした。

 そしてアメリカ。
 「アメリカ企業は闇の部分が光の部分より多い」と言われ、アメリカ企業の水増しバランスシートのせいで1929年の大恐慌が起き、なんと1933年までに時価総額の89%が失われたのです。
 そんな中、インサイダー取引も銀行と政治家の間で行われていて、モルガン、クーリッジ大統領、ケネディ大統領の父などアメリカの闇の部分が露になったりします。
 そんな会計の闇が引き継がれて出てきたのが2008年のリーマンショックです。
 そして現在でも、グローバル企業はそのあまりの複雑さに、中国はその巨大さでなお会計責任を果たさない為に、「経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている」と言えるのです。

 帳簿から見た世界史の本として面白い試みです。
 帳簿の歴史としても世界史のおさらいとしても読める良い本です。

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コメント

19世紀末までの複式簿記は、現在の損益法ではなく、財産法でした。つまり期末純財産(資産マイナス負債)から期首純財産を引いて、プラスなら利益、マイナスなら損失です。これは船の出港時(期首)から帰港時(期末)までの期間損益の計算に便利だったからです。
現在は企業会計が中心なので、損益法すなわち収益から費用を引いて利益を計算します。
複式簿記を採用していると、財産法でも損益法でも利益額は一致します。
ちなみに、政府は基本的に単式簿記、すなわち収支計算です。石原都知事(当時)が東京都に複式簿記を採用しています。もっとも、上手く活用できているかどうかは別問題ですけどね。

ヌマンタさん、こんばんは。
いろいろありがとうございます(^_^)/

簿記の試験、精算表で損益計算書と貸借計算書が合わなくて顔が真っ青になった記憶がよみがえりました・・・

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